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高松高等裁判所 平成11年(行コ)12号 判決

主文

一  一審原告の控訴に基づき、原判決中、主文一項のうち支出票及び支出命令額整理票に関する部分を取り消す。

二  一審被告が一審原告に対して平成九年五月二〇日付けでした公文書一部公開決定のうち、支出票及び支出命令額整理票を非公開とする処分を取り消す。

三  一審原告のその余の控訴及び一審被告の控訴をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その一を一審原告の、その余を一審被告の各負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  一審原告

1  原判決中、主文一項のうち支出票及び支出命令額整理票に関する部分並びに主文三項をいずれも取り消す。

2  一審被告が一審原告に対して平成九年五月二〇日付けでした公文書一部公開決定のうち、支出票及び支出命令額整理票並びに原判決別紙文書目録一1及び二記載部分を非公開とする処分を取り消す。

二  一審被告

1  原判決中、主文二項を取り消す。

2  右取消しにかかる部分の一審原告の請求を棄却する。

第二事案の概要

一  原判決の引用

次のとおり補正するほか、原判決の「事実及び理由」中の第二(三頁七行目から三二頁四行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する(なお、本件訴えのうち、原審が原判決別紙文書目録一2、4(二)及び三2(二)記載部分に関する訴えを却下した部分については、一審原告から不服申立てがないので、当審における審理の対象とはならない。)。

1  原判決六頁七行目末尾に「(甲二七)」を加える。

2  同一四頁一一行目の「できるのあって」を「できるのであって」に、同一五頁六行目の「決済」を「決裁」にそれぞれ改める。

3  同二〇頁一〇行目の「本件条例」の次に「六条一号本文」を加え、同二一頁一行目の「で保護した」を「を原則とした」に改める。

二  当審における当事者の補足的主張

1  争点1(一)(本件訴え中、「支出票」及び「支出命令額整理票」についての非公開決定の取消しを求める部分は適法か)について

【一審原告】

一審原告は、土木監理課が平成四年六月から同五年三月までの間に実施した会合のうち、一回の会合に支出した食糧費の額がいずれも九万九一一〇円であったものが二二回もあったことから、これらの会合が真実開かれたことに疑問を抱き、本件公開請求に及んだものであるところ、一審被告が公開した公文書中には、実際に県知事が飲食店に飲食代金を支払ったことや、飲食店がこれを受領したことを証するもの、あるいは、これを推認させるものが全く含まれておらず、支出票等が公開されて初めて、県知事と飲食店の間の飲食代金の授受が明らかにされるか、またはその事実が推認されるものである。一審原告が本件公開請求の対象とした公文書に、支出票等が含まれないと解することは、本件公開請求の目的・趣旨をことさら曲解するものであり、公文書公開制度の芽を摘むものである。

一審原告が本件公開請求の対象とした公文書に支出票等が含まれていることは明らかであり、一審被告がこれを公開していない以上、支出票等につき実質的に非公開決定がされたものというべきである。

【一審被告】

一審原告は、会合に関して抱いた疑問や本件公開請求をした目的・趣旨について主張するが、このような事実は、本件訴えのうちの支出票等に関する部分の適法性の判断には関係がない。

県の支出については、会計則により具体的手続及び作成すべき書面が定められ、何人でもどのような書面が存在するかを判断でき、また、県の担当者に照会することにより容易に知ることができるにもかかわらず、必要な調査もしないままに「その他の一切の資料」との表現で本件公開請求をし、情報の重複するものも含めて一枚残らず公文書の公開を求めることは、一審被告側の公文書公開に伴う労力及び費用を無視するものである。

2  争点2(一)(県側職員の出席者氏名の本件条例六条一号本文該当性)について

【一審被告】

住民の公文書公開請求権は、憲法上の理念(国民の知る権利の保障)につながるものであるとしても、直接憲法の条項に基づくものではないから、本件条例六条一号本文の非公開事由に該当するか否かは、本件条例の趣旨・目的に沿って、同号の文言を合理的に解釈すべきであって、その文言を離れて解釈されるべきではない。そして、公務員の公務遂行に係る情報は個人情報としての性質を欠くという考え方も一般的にはあり得るであろうが、本件条例六条一号ただし書は、個人情報に該当しないものを列挙しているものではなく、同号本文において個人情報に該当するとして非公開としたもののうち、非公開の範囲から除外するものを列挙したものであることから、右のような考え方を採用していないことは明らかである。右規定形式からして、県側職員の出席者氏名は、本件条例六条一号本文の非公開事由に該当するというべきである。

また、本件条例の一部を改正する条例附則二項においては、右改正条例によって追加された本件条例六条一号ただし書ニの規定は、右改正条例の施行の日(平成九年八月一日)以後に決裁又は閲覧の手続が終了した公文書について適用し、同日前に決裁又は閲覧の手続が終了した公文書についてはなお従前の例によることとされている。右改正条例の立法段階においても、立法担当者から、①右改正条例は、公務員の職及び氏名を原則公開とするなど、公開の範囲を拡大しようとするものである、②右改正条例を遡及適用すると当該個人に不利益をもたらすおそれがあることから、必要最小限度の周知期間を設けて、右施行日以後に決裁等の手続が終了した公文書から適用することとした旨の説明がされている。したがって、本件条例六条一号ただし書ニの追加は、非公開の除外事由を拡大したものであり、公務員の職及び氏名が個人情報に当たらないことを明確化するため注意的に規定されたものではない。

【一審原告】

補正して引用した原判決「事実及び理由」中の第二の二2の(原告の主張)欄(一)のとおり、県側職員は公務として会合に出席したのであるから、県側職員の出席者氏名は、個人のプライバシーに属するものではなく、本件条例六条一号本文の非公開事由に該当しない。

3  争点2(二)(相手方出席者の氏名、職名〔役職名〕及び所属の本件条例六条一号本文、同五号該当性)について

【一審被告】

相手方出席者の氏名等が本件条例六条一号本文に該当することは前記2【一審被告】欄における県側職員の出席者の氏名についての主張と同様である。

また、地方公共団体の長又はその他の執行機関が、当該地方公共団体の事務を遂行し、対外的折衝を行う過程において、社会通念上儀礼の範囲にとどまる程度の接遇を行うことは、当該地方公共団体も社会的実体を有するものとして活動する以上、右事務に随伴するものとして許容されるべきであるが、この三、四年間においては、地方公共団体における右のような会合は少なくなるとともに、その出席者においても、概ね会合に関する情報が公開の対象となることを認識するに至っている。

しかしながら、平成四年当時は、右のような会合は、現在に比較すると回数が多く、その出席者は、会合の日時、場所及びその概括的内容はもちろん、出席者の氏名、職名、所属や所要経費、内訳等につき、広く県民に公開されることを想定していないのが実状であった。当時の会合に関して、本件条例六条五号の該当性を判断するについては、当時の実状を前提とすべきところ、右実状を前提とすると、相手方出席者の氏名等が公開されれば、相手方において不快、不信の念を抱き、以後同種の会合への参加を拒否し、率直な情報を提供しなくなる事態となり得る。したがって、相手方出席者の氏名等は、本件条例六条五号の非公開事由に該当するというべきである。

【一審原告】

補正して引用した原判決「事実及び理由」中の第二の二2の(原告の主張)欄(二)のとおり、相手方出席者の氏名等は、本件条例六条一号本文、同五号の非公開事由に該当しない。

4  争点2(三)(債権者の銀行口座等の本件条例六条二号本文該当性)について

【一審原告】

請求書に押印された債権者の印影は、銀行口座取引に関する印影ではなく、請求書の債権者氏名(法人にあってはその名称及び代表者の職・氏名)下に顕出されているものであって、これは、債権者氏名とともに請求者を特定し、請求の意思を明らかにするものである。したがって、右印影は、債権者の氏名と一体をなすものであって、債権者の氏名を公開しなければならない以上、右印影を非公開とする理由はない。

また、手引(甲二六)によっても、法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報で、公開することにより、当該法人等又は当該個人に不利益を与えることが明らかであると認められるもの(情報)とは、①生産技術上、販売上のノウハウに関する情報、②経理、人事等内部管理に属する情報で、公開することにより、法人等又は事業を営む個人の事業活動が損なわれると認められるもの、③その他公開することにより、法人等又は事業を営む個人の名誉、社会的評価、社会活動の自由等が損なわれると認められる情報をいうとされている。そして、右②において公開することにより事業活動が損なわれると認められる情報は、右①③において保護される情報と同程度の価値のものであることを要するというべきところ、飲食店を営む事業者が、その利用客に対して飲食代金を請求するための請求書に記載した事業者の銀行口座等は、右①③における情報と同程度の価値のある情報であるとはいえないから、右②における公開することにより事業活動が損なわれると認められる情報には該当しない。

よって、債権者の銀行口座等は、本件条例六条二号本文の非公開事由に該当しない。

【一審被告】

請求書における事業者の印影が銀行口座取引に関するものであろうと、それ以外の取引に使用されるものであろうと、事業者はどの印章を使用するかの自由を有し、それが事業者の内部管理情報であることには変わりがない。

公文書公開制度は、一般に門戸が開かれているから、社会に潜む悪意者や悪徳業者等の手に入ることにより、情報が濫用されることも考慮しなければならず、濫用された場合、事業者の生活の平穏が乱され、あるいは、その身体、自由、財産等に危険が及ぶこともあり得る。あらゆる制度は常に濫用の危険をはらんでいるのであり、情報の保護が軽視されると、住民は、情報をいかに秘匿しようとしても、当該情報を行政に知られてしまうと、公文書公開制度を通じて他人に知られてしまうことになりかねない。このような濫用の危険からしても、事業者の正当な利益は十分に保護されなければならず、債権者の銀行口座等は、本件条例六条二号本文の非公開事由に該当するというべきである。

一審原告は、債権者の銀行口座等の情報は、手引において本件条例六条二号本文により非公開とされる情報として例示されたものと比較して、その価値が同程度であるとはいえないと主張するが、同号本文の解釈及びその非公開事由に該当するか否かの判断において、右例示された情報の価値の比較は不必要である上、そのような比較は不可能である。

第三当裁判所の判断

一  争点1(一)(本件訴え中、「支出票」及び「支出命令額整理票」についての非公開決定の取消しを求める部分は適法か)について

1  当裁判所が認定した事実は、次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」中の第三の一1(三二頁八行目から三七頁五行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

(一) 原判決三二頁八行目の「及び」を「、」に改め、「二六、」の次に「二八~四九の各1・2・3、」を、「四)」の次に「及び弁論の全趣旨」をそれぞれ加える。

(二) 同三五頁一行目の「した上」と「、」の間に「(会計則七条)」を加える。

(三) 同三七頁三行目から五行目までを削除する。

2  右補正して引用した事実によれば、支出票等は、本件公文書とともに、一審原告が本件公開請求にあたり、同請求書において特定した期間の会合の支出に係る公文書であり、同請求書の「請求する公文書の内容」欄に記載された「執行伺書、支出金調書、内訳書、請求書、参加者名簿」には該当しないものの(支出金調書〔支出調書〕とは、請求書により難い経費について、請求書に代えて作成されるものである〔会計則五三条一項〕から、支出票等は支出金調書ではない。)、同請求書に記載された「その他の一切の資料」に該当するものと解される。

3  一審被告は、支出票等については本件公開請求の対象とはなっていないものとして本件処分をしたものであるから、本件処分には支出票等についての非公開決定は含まれず、本件訴え中、支出票等に関する部分は不適法である旨主張し、一審原告は、支出票等が本件公開請求の対象となっていることは明らかであるのに、一審被告は、これを公開していないから実質的に非公開決定をしたものである旨主張する。

そこで、検討するに、補正して引用した事実(原判決「事実及び理由」中の第二の一、第三の一1)及び証拠(甲二、三~二四の各1・2・3、二七、二八~四九の各1・2・3、乙一、八、証人A)によれば、一審被告は、本件条例に基づく公文書公開請求書の「請求する公文書の内容」欄に「その他の一切の資料」と記載された場合において、共通の情報が含まれる多数の公文書が存在するときは、それらの公文書全部の公開は労力と費用の観点から事実上困難な場合が多いことから、共通の情報が含まれているもののうちその代表的な文書(最も多くの情報を記載した文書)を公開請求の対象としているものとし、その情報の一部を転記・複写したものは、明示の請求がない限り、公開請求の対象としていないものとして取り扱っていることが認められるところ、本件公開請求においても、支出票及び支出命令額整理票の記載は、本件公文書中の執行伺書兼支出命令票及び請求書の記載内容の一部が転記されたものであることから、本件公文書に支出票及び支出命令額整理票の情報が含まれているものと考え、一審原告が公開請求をしている文書を本件公文書と特定し、本件処分通知書の「請求のあった公文書」欄に「土木監理課の食糧費について、平成四年六月から平成五年三月までの間に実施した懇談会等の会合に係る一件の支出確定額が九万九一一〇円のものについての執行伺票兼支出命令票及びこれに添付する請求書、食糧費経費内訳」と記載し、これらの文書について、一部を公開、一部を非公開とし、非公開部分につきその理由を付して本件処分を行ったことが認められる。

右事実によれば、一審被告は、本件公開請求の対象を本件公文書と特定した上、これについて本件処分をしたものであるから、本件処分に支出票等についての非公開決定は含まれていないとも考えられる。また、前記のような一審被告の取扱いは、情報公開という公文書公開制度の趣旨・目的とその円滑な運用の観点からすれば一定の合理性を有するとみることができないではない。

4  しかしながら、支出票等は、本件公開請求書において一審原告が特定した会合の支出に係る公文書であるから、支出票等が同請求書の「その他の一切の資料」に含まれることは客観的に明らかであるところ、本件においては、本件公文書と支出票等のほかに、一審原告が本件公開請求書において特定した期間の会合の支出に係る文書がどの程度存在するかは判然とせず、それらが膨大な数であって公文書公開の事務手続に具体的な支障が生じることを認めるに足りる証拠はないこと、また、支出票等を本件公文書に加えて本件公開請求の対象としたとしても、二二回分の会合につき各二通(支出票及び支出命令額整理票の各一通)の文書が加わるだけであるから、そのことによって本件公文書のみを本件公開請求の対象とした場合と比較してその労力や費用の点において相当な差があるともいい難いことからすれば、本件公開請求において、一審被告が、前記の取扱いにより支出票等を本件公開請求の対象から除外したことには疑問がある。

また、支出票及び支出命令額整理票の様式はそれぞれ原判決別紙様式1及び2のとおりであって、右記載内容は、本件公文書中の執行伺票兼支出命令票及び請求書の記載内容の一部が転記されるものであると推認できる(甲三~二四の各1・2・3、二八~四九の各1・2・3、乙一)ものの、支出票及び支出命令額整理票は、支払票(正・副)、支払案内書とともに五枚複写となっている支払伝票のうちの二枚であり、これらは支出命令票の送付を受けた出納機関によって作成されるもので、支出票は出納機関において、支出命令額整理票は収支命令者においてそれぞれ保管され、支払票は指定金融機関に、支払案内書は債権者にそれぞれ送付されるものであること(補正して引用した原判決「事実及び理由」中の第三の一1)からすれば、支出票等は口座振替えによる具体的支出手続にとって重要な書類の一部であるということができること、右のとおり、支出票等は、指定金融機関に送付される支払票とともに複写式で作成されるものであることからすれば、記載された内容が執行伺票兼支出命令票及び請求書の記載内容の一部が転記されたものであるとしても、支出票等が作成されていること自体が正当な手続で支出がされたことを示す一つの資料であるといえ、必ずしも本件公文書の公開と重複し、本件公文書を公開すれば公開する必要がない、あるいは必要性に乏しいものとまではいえないことを総合すると、本件公開請求者である一審原告の意思を確認することのないまま、本件公開請求の対象に客観的に含まれる支出票等を含まれないものとした一審被告の取扱いが合理性を有するということはできない。

一審被告は、必要な調査をしないまま「その他の一切の資料」との表現で本件公開請求をし、情報の重複するものも含めて一枚残らず公文書の公開を求めることは、一審被告側の公文書公開手続に伴う労力及び費用を無視するものである旨主張するが、少なくとも本件においては、支出票等の公開が必ずしも本件公文書の公開と重複するものといえないことは前記のとおりである上、本件条例八条は、請求書において「公開を請求しようとする公文書の内容」の記載を要求しているものの、文書名等による特定までは要求しておらず、手引においても、公文書の件名が記載されることが望ましいが、実施機関の職員が公文書の特定をし得る程度の記載があればよいとされている(補正して引用した原判決「事実及び理由」中の第三の一1(一))ところ、本件公開請求書において、公開を求める対象は特定の期間の会合の支出確定額が九万九一一〇円のものについての公文書である旨が明らかにされているから、実施機関の職員が公文書の特定をし得る程度の記載はされているというべきであり、また、前記のとおり、本件公文書及び支出票等の他にどの程度右に該当する文書が存在するかについて認定できる証拠もないから、一審原告が、「その他の一切の資料」との記載によって本件公開請求をしたことが、直ちに一審被告側の労力や費用を無視した不当な請求であるということもできない。

5  さらに、一審被告がしたような取扱いが、文書公開請求者の意思を全く確認することもなくされる場合には、恣意的な取扱いによって公文書公開制度の潜脱を許すことになるおそれも否定できない上、共通する情報が最も多く含まれる文書であるとの判断が誤まったものであれば、公文書公開請求において請求者が本来取得しようとした情報が得られない結果となる。また、請求者が文書名等で公開を求める文書を特定できず、又はそれが困難な場合において、実施機関が、本来は公文書公開請求の対象に含まれる公文書を含まれないものとして取り扱ったとすれば、請求者は当該文書の存在やそれにつき公開・非公開の判断がされなかったことを知ることも困難であり、当該文書は公開・非公開の明示的な決定がされないまま、事実上非公開とされたと同様の結果となってしまうことも考えられる。このような取扱いは、本件条例三条が、実施機関は県民の公文書の公開を求める権利が十分尊重されるようにこの条例を解釈し、運用しなければならないとしている(乙二)趣旨にも反するというべきである。

6  以上に加え、本件処分には支出票等についての非公開決定は含まれない旨の一審被告の主張を前提にすると、一審被告は、本件公開請求のうち支出票等についてさらに判断すべきことになるところ、本件条例は、実施機関は請求書を受理したときは、受理した日から起算して一五日以内に当該請求に対する決定をしなければならず、その期間内にできないときはその期間を延長できるが、延長の理由及び決定をすることができる時期を請求者に通知しなければならないとしている(九条一項、四項。乙二)が、本件ではそのような延長の手続はとられていないこと(弁論の全趣旨)、一方で、一審被告は、本件処分通知書の「請求のあった公文書」欄の記載によれば支出票等が本件公文書に含まれていないことが明らかであるから、一審原告は支出票等を対象文書として明示して別途その公開を求めることが容易にできるのであって何ら不都合はない旨主張していること(本件公開請求における対象文書に支出票等が客観的に含まれることは明らかであるから、一審原告が別途支出票等を対象文書として文書公開請求をしなければならない理由はないというべきである。)を総合すると、本件処分において、形式的には支出票等につき公開・非公開の決定はされていないかのようであるが、実質的には、支出票等が本件公開請求において請求された文書ではないとの理由によって、同文書につき非公開決定がされたものとみるのが相当である。したがって、本件訴え中、支出票及び支出命令額整理票を非公開とする処分の取消しを求める部分は、右のように実質的にされた非公開決定の取消しを求めるものであるから適法というべきである。

そして、支出票等についての右非公開決定は、本件公開請求の対象に支出票等が含まれるにもかかわらず、これが含まれないと判断したことによるものであるから、右非公開決定は理由がなく、取り消されるべきものである。

二  争点2(一)(県側職員の出席者氏名の本件条例六条一号本文該当性)について

当裁判所も、県側職員の出席者氏名は、本件条例六条一号本文の非公開事由に該当しないと判断するが、その理由は次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」中の第三の三1(四三頁九行目から四六頁七行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決四三頁一〇行目の「保護するため、」の次に、「個人のプライバシーに関する情報であると明らかに判別できる場合はもとより、それが不明確である場合をも含めて、」を加える。

2  同四四頁七行目と八行目の間に次のとおり加える。

「しかしながら、本件条例六条一号は、前記のとおり、個人の尊厳及び基本的人権の尊重の立場から、個人のプライバシーを尊重する趣旨の規定であるから、個人の私的領域には属さず、プライバシーに関係のないものについては、「個人に関する情報で、特定の個人が識別され得るもの」に該当しないものと解するのが相当である。仮に、公務員の氏名が、常に「個人に関する情報で、特定の個人が識別され得るもの」に該当すると解すると、公文書に含まれる公務員の氏名は同号ただし書の除外事由に該当しない限り非公開とされることになるところ、公文書には、職務の執行に当たった者を特定し、その責任の所在を明確にするため、公務員の役職とともに氏名が記載されることが多いが、そのような公文書には右趣旨を超えて当該公務員の個人の行動ないし私生活に関わる情報が含まれないのが通常であることからしても、右のような解釈は不合理であるというべきである。」

3  同四四頁八行目の「しかしながら」を「そこで、本件公文書中の県側職員の出席者の氏名について検討するに」に、同四五頁二行目の「べきである」を「べきであるから、県側職員の出席者の氏名は、それを公開することにより本件公文書において特定される会合に出席した情報が明らかになるものの、その情報は当該職員個人の私的領域には属さず、プライバシーには関係がないものとして、本件条例六条一号本文の「個人に関する情報で、特定の個人が識別され得るもの」に該当しないものと解するのが相当である」にそれぞれ改める。

4  同四五頁七行目の「公務を」から同四六頁二行目までを「個人的な懇親を深める機会があったとしても、それは付随的なものである上、そもそも県側職員の出席者氏名を公開することによって明らかになる情報は、本件公文書において特定される会合に当該職員が出席した事実であって、それをもって右個人的な懇親の内容等が明らかになるものではないから、右主張をもっても、県側職員の出席者氏名が、本件条例六条一号本文の非公開事由に該当するということはできない。」に改める。

5  同四六頁七行目の次に改行して次のとおり加える。

「なお、一審被告が主張するように、本件条例を改正する条例附則二項は、右改正後の本件条例六条一号ただし書ニの規定は、右改正条例の施行の日(平成九年八月一日)以後に決裁又は閲覧の手続が終了した公文書について適用し、同日前に決裁又は閲覧の手続が終了した公文書についてはなお従前の例によることとし(補正して引用した原判決「事実及び理由」中の第二の一5(二))、また、本件改正条例の立法段階において、県知事は、本件改正条例は、公務員等の職及び氏名について原則公開とするなど、公開の範囲を拡大しようとするものである旨提案理由を説明し、総務常任委員長は、同委員会の審査の経過・結果等の報告として、本件改正条例を遡及適用すると当該個人に不利益をもたらすおそれがあることから、必要最小限度の周知期間を設けて、右施行日以後に決裁等になった文書から適用することとした旨理事者から答弁があった旨述べたことが認められる(乙九)ものの、前記の本件条例六条一号の趣旨等からすれば、公務員の私的領域に属さずプライバシーに関係のないものが、同号の非公開事由になるとは解し難いことからすれば、右立法段階の提案理由や経過規定の存在のみをもって、前認定・判断は左右されない。」

三  争点2(二)(相手方出席者の氏名、職名〔役職〕及び所属の本件条例六条一号本文、同五号該当性)について

当裁判所も、相手方出席者の氏名等は、本件条例六条一号本文、同五号に該当しないと判断するが、その理由は次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」中の第三の三2(四六頁一一行目から五三頁八行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

原判決五三頁六行目の次に改行して次のとおり加える。

「なお、一審被告は、平成四年当時は、会合への出席者は、出席者の氏名、職名、所属等が広く県民に公開されることを想定していなかったのが実状であることからすれば、本件公文書中の相手方出席者の氏名等が公開されれば、以後同種の会合への参加を拒否されるなどの支障が生じる旨主張するが、仮に本件公文書において特定される会合の出席者が出席当時、相手方氏名等が公開されることを想定していなかったとしても、右に述べたとおり、本件公文書に記載された情報の内容に照らせば、相手方出席者の氏名等の公開により、以後同種会合への参加を拒否したりするなどの事態が生じるとは認め難いことは同様であって、右主張は採用できない。」

四  争点2(三)(債権者の銀行口座等の本件条例六条二号本文該当性)について

当裁判所も、債権者の銀行口座等は、本件条例六条二号本文に該当しないと判断するが、その理由は次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」中の第三の三3(五三頁一〇行目から五七頁五行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決五六頁七行目の「請求書」の次に「(会計則第二一号様式によるもので、債権者が日常の業務で使用している請求書ではない〔甲二九~四八の各2、乙一〕。)」を、同一〇行目の「そうすると」の前に「また、本件預金口座等の情報によって、当該事業者の取引金融機関名・種別、銀行口座の種別が判明することから、当該事業者の金融機関からの一般的な信用評価の程度や手形取引の有無を窺い知ることが可能であり、それが当該事業者の信用評価に影響することが考えられ、さらに、口座名義・番号の情報や印影等が悪用される可能性もあり、債権者の銀行口座等の情報が公開された場合に、これらの悪用によって、当該事業者の金銭管理等に混乱ないし支障が生じるおそれも考えられる。」を加える。

2  同五七頁一行目から二行目にかけての「明らかであり」から同三行目までを「明らかであると認めるのが相当である。」に改め、その次に改行して次のとおり加える。

「一審原告は、本件公文書中の請求書における債権者の印影は、銀行取引印ではなく、債権者の氏名と相まって請求者を特定し、請求の意思を明らかにするにすぎない旨主張するが、右印影が債権者の銀行取引印によるものでないとしても、社会生活上印章が重要な役目を果たしていることにかんがみれば、右認定・判断は左右されない。また、一審原告は、債権者の銀行口座等が、手引(甲二六)において、当該事業者に「不利益を与えることが明らかであると認められるもの」の例示とされている「生産技術上、販売上のノウハウに関する情報」、「その他公開することにより、法人等又は事業を営む個人の名誉、社会的評価、社会活動の自由等が損なわれると認められる情報」と同程度の価値を有する情報とはいえず、本件条例六条二号本文の非公開事由に該当しない旨主張するが、前記の事情からすれば、債権者の銀行口座等は、手引におけるもう一つの例示である「経理、人事等内部管理に関する情報で、公開することにより、法人等又は事業を営む個人の事業活動が損なわれると認められるもの」に該当すると解される上、あえて他の例示における情報と比較してみても、その価値が必ずしも低いものということはできなから、右主張は採用できない。」

五  結論

以上の次第で、本件処分のうち、支出票及び支出命令額整理票、本件公文書中の県側職員の出席者氏名、相手方出席者の氏名等及び債権者の銀行口座等を非公開とした部分の取消しを求める請求は、支出票及び支出命令額整理票並びに本件公文書中の県側職員の氏名及び相手方出席者の氏名等に関する部分を非公開とする部分の取消しを求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却すべきところ、これと一部異なる原判決中、主文一項のうち、支出票及び支出命令額整理票に関する部分を取り消して、本件処分中の同部分を非公開とする部分を取り消し、原判決中その余の部分は相当であって、一審原告のその余の控訴及び一審被告の控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山脇正道 裁判官 田中俊次 裁判官 松本利幸)

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